『紙の月』:東京国際映画祭からレビュー
宮沢りえ主演『紙の月』は本年度の東京国際映画祭で最も観客から支持された作品です(観客賞)。そして宮沢りえ自身も審査員から満場一致で最優秀女優賞を受賞。数々の海外作品が上映されたなか、バイアスなしで日本のこの作品が受賞に至ったのだと思います。そして一般上映は2日後に迫っています(11月15日)。
実際に映画祭にて鑑賞した感想を交えて『紙の月』をネタバレ無しでレビューします。
ストーリー(引用)
1994年。梅澤梨花(宮沢りえ)は、子どもには恵まれなかったものの夫(田辺誠一)と穏やかな日々を送っている。契約社員として勤務する「わかば銀行」でも、丁寧な仕事ぶりで上司の井上(近藤芳正)からも高評価。支店では、厳格なベテラン事務員の隅より子(小林聡美)や、まだ若くちゃっかり者の窓口係・相川恵子(大島優子)ら、様々な女性たちが梨花と共に働いている。だが一見、何不自由のない生活を送っている梨花であったが、自分への関心が薄く鈍感なところのある夫との間には空虚感が漂い始めていた。ある夜、梨花の顧客で裕福な独居老人の平林(石橋蓮司)の家で一度顔を合わせたことのある孫の光太(池松壮亮)と再会した梨花は、何かに導かれるように大学生の彼との逢瀬を重ねるようになる。そんな中、外回りの帰り道にふと立ち寄ったショッピングセンターの化粧品売り場。支払い時にカードもなく、現金が足りないことに気づいた梨花が手を付けたのは、顧客からの預かり金の内の1万円だった。銀行に戻る前にすぐに自分の銀行口座から1万円を引き出して袋に戻したが、これが全ての始まりであった。学費のために借金をしているという光太に梨花は「顧客からの定期の申し込みがキャンセルになった」と200万を渡す。さらに顧客から預かった300万を自分の通帳に入れ、自宅で定期預金証書や支店印のコピーを偽造する……。やがて横領する額は日増しにエスカレートしていくのだった、上海に赴任するという夫には同行せず、梨花は光太と一緒に高級ホテルやマンションで贅沢な時間を過ごすが、光太の行動にも変化が現れ、ある日、光太が大学を辞めたことを告げられる。そんな折、隅が、銀行内で不自然な書類の不備が続いていることを不審に感じ始めていた……。
公式リンク:http://www.kaminotsuki.jp/
宮沢りえはとても悪い女性だということ、そしてこの映画祭で最も魅力的な女性だったということ。
純粋な人妻を装いながら年下の男性と浮気を重ね、勤め先の銀行で横領を続ける姿を芸術の値まで昇華させることができる女優は宮沢りえ以外に日本ではいなかったでしょう。
ここだけの話ですが、この映画は女性達にはとても不評でした。「宮沢りえも役柄も全てが嫌い」との事。映像や演技の批評ではなく、いわゆる嫉妬です。同性に嫉妬されるほど悪い女性の役がはまっていました。
男性陣は満場一致でこの映画を支持していたのも印象的でした。男は綺麗で純粋(を装う)女性に弱いからでしょう。この映画のストーリーにも当てはまりますが、男は純粋な女性が実は悪いことをしているのに気づいていても、敢えて自分でそれを認めない動物なのだと思います。
また宮澤りえだけではなく池松壮亮の演技も印象に残りました。宮沢りえ役の不倫相手役であり、間接的でありながらも人妻が銀行で横領を始める要因となった年下の悪い男を演じています。この難しい役を違和感なしで演じる彼の演技力は脱帽もので、彼は日本を代表する若手役者だと改めて感じました。
ちなみに池松壮亮が出演している作品は今回の映画祭に2作品あり、『紙の月』ほかもう1つは我々が制作した『愛の小さな歴史』です。少々自慢げになってしまいますが、彼が我々の作品で演技していることを嬉しく感じます。
話を戻しますが、『紙の月』は始まりから終わりまで緊張感が漂い目が離せない作品です。さすが吉田大八監督というべきか映像や音楽も文句なしです。自信を持って私はこの作品を周りにお勧めします。あと、宮沢りえのことを散々悪い女だと言いましたが受賞式では私の後ろの席に座っており、受賞後に「おめでとうございます」とお声を掛けたら「ありがとうございます」と丁寧にお返事をいただけました。今後この話を孫の代まで自慢します。
ちなみに今週と来週にかけてまた東京国際映画祭の上映作品や様子を当事者としてレビューする予定ですが、今回私が観た日本映画のトップは『紙の月』と『愛の小さな歴史』でした(自分で自分の作品を褒めるのも変ですが、真面目にそう考えます)。
我々の作品はまだ上映先が決まっていませんが、なるべく早くみなさまに両方の作品をみていただけたらと感じます。よろしくお願いいたします。
Tokyo New Cinema
代表 木ノ内輝