NVIDIAの戦略とは?CUDAとAI Factoryから読み解く競争優位
資源依存論とストーリーテリングからNVIDIAを読み解く
木ノ内 輝|株式会社Tokyo New Cinema 代表
NVIDIAの戦略は、単に高性能なGPUを開発することだけでは説明できない。1993年の創業から、CUDA、AIコンピューティング、AI Factoryへと事業領域を広げる過程で、NVIDIAは開発者、研究者、クラウド企業、政府などとの相互依存ネットワークを形成してきた。
2025年10月、NVIDIAは世界で初めて時価総額5兆ドルに到達した。
しかし、1993年の創業時、NVIDIAは製造設備も十分な資本も顧客基盤も持たない新興企業だった。それから約30年で、同社はグラフィックス半導体企業から、AI産業を支える基盤的企業へと変化した。
この成長は、単に「優れた技術・製品(GPU)を開発したから」と説明できるのだろうか。
本稿ではNVIDIAの戦略を、優れた半導体を開発した企業の成功物語としてではなく、外部資源への依存を管理しながら、自らのアイデンティティとストーリーを更新し、顧客、開発者、研究者、クラウド企業、投資家、政府などを巻き込む相互依存ネットワークを形成してきたプロセスとして分析する。
結論を先に述べると、NVIDIAの特徴は外部への依存をなくしたことではない。
むしろ、多様な企業や研究者との相互依存を拡大しながら、そのネットワークの中で自社を代替しにくい位置へ移動してきたことにある。
※本稿は2026年8月時点の公開資料に基づく分析です。
NVIDIAの戦略を考える2つの視点
企業は、事業に必要なすべての資源を自社だけで保有しているわけではない。
製造力、資本、人材、技術、顧客、インフラなど、多くの資源を外部の企業や社会に依存している。
経営学における資源依存論(Resource Dependence Theory)は、こうした依存関係が組織間のパワーを生み、企業が提携、交渉、買収、内製化などを通じて依存構造を管理・変更しようとすることに注目する(小橋, 2012)。
もう一つの視点が、文化的アントレプレナーシップ(Cultural Entrepreneurship)である。
Lounsbury and Glynn(2001)は、起業家のストーリーを単なる宣伝手法としてではなく、企業が「何者なのか」というアイデンティティを形成し、投資家や顧客などから正当性を得て、資源を獲得していく重要なプロセスとして捉えた。
本稿では、この2つの視点を次のように接続して考える。
アイデンティティとストーリー
↓
評価者による正当性・評判・地位の判断
↓
投資・契約・参加・協力
↓
資源の動員と補完的資産への蓄積
↓
相互依存ネットワークにおける中心的位置の形成
↓
次のアイデンティティとストーリーへ

なお、本稿でいう「中心的位置」は、ネットワーク分析上の定量的なcentralityを意味しない。
複数の外部アクターがNVIDIAのハードウェア、ソフトウェア、ネットワークなどを活動の前提として利用し、他の選択肢へ移行するためのコストが高まった状態を指す分析上の概念として用いる。
1.NV1の失敗――技術の価値を「伝える」ことを学ぶ
NVIDIAは1995年、自社初のグラフィックス製品NV1を市場に投入した。しかし、多額の開発費を投じたNV1は期待した成果を上げることができなかった。
CEOのJensen Huangは当時、取締役から製品をどのようにポジショニングするのかと問われても、その質問自体を十分に理解できなかったと後に振り返っている(キム, 2025)。
重要なのは、Huangがこの経験を単なる技術上の失敗として処理しなかったことである。
技術を開発することと、その技術が顧客にとってどのような意味を持つのかを、理解可能な形で提示することは別の能力である。
本稿では、この失敗を、NVIDIAがその後、自社のアイデンティティとストーリーを反復的に更新していく一つの起点として捉える。
もちろん、NV1の失敗には製品設計、規格、市場環境など複数の要因が存在しており、ストーリーテリングだけで成否を説明することはできない。
しかしHuang自身が、技術そのものだけでなく、その価値の位置づけを経営上の課題として認識したことは、その後のNVIDIAを理解するうえで重要である。
2.「GPU」というカテゴリーをつくる
NV1、NV2の失敗を経て、NVIDIAは1997年にRIVA 128を成功させた。翌1998年にはTSMCとの製造連携を開始し、1999年には株式を公開する。そして同年、NVIDIAはGeForce 256を「GPU(Graphics Processing Unit)」として市場に投入した。
ここで興味深いのは、NVIDIAが単に高性能なビデオチップを販売したのではなく、従来の画像処理用チップを、CPUに対置される独立した「GPU」というカテゴリーとして提示した点である。
HuangとNVIDIAのマーケティングチームは、GPUという名称を商標登録せず、他社にも利用可能な言葉として広げていったとされる(キム, 2025)。
これは単なる製品名称の変更ではない。「ビデオチップを作る会社」から「GPUを作る会社」へと、自社のアイデンティティそのものを再定義する行為だったと考えられる。
その後、製品採用と市場成果が積み上がることで、NVIDIAは顧客からの実用的正当性、将来成果への評判、GPU市場における地位を徐々に形成していった。
3.CUDA――なぜハードウェア企業が無料のソフトウェアへ投資したのか
GPUがNVIDIAの成長を支えたことは間違いない。しかし、技術的に優れた製品を開発した企業が、必ずしもその価値を長期的な利益として獲得できるわけではない。
Teece(1986)は、イノベーションから価値を獲得するためには、コア技術だけでなく、製造、マーケティング、サービスなどの補完的資産が重要になると論じている。
NVIDIAにとって、その後の競争優位を支えた中核的な資産の一つが、2006年に公開されたCUDAだったと考える。CUDAは、NVIDIAのGPUをグラフィックス以外の汎用的な並列計算にも利用できるようにするプログラミング・プラットフォームである。
HuangはCUDAについて、広く普及させ、基礎的な技術にするという趣旨の発言をしている(キム, 2025)。ここで注目したいのは、ハードウェア企業であるNVIDIAが、短期的には必ずしも大きな利益を生まないソフトウェアへ長期投資したことだ。
NVIDIAは大学や研究者にもGPUとCUDAを提供し、利用者を広げていった。その結果、GPUを利用する研究者や開発者が増え、ソフトウェア、ライブラリ、研究知識、開発技能がNVIDIAのプラットフォーム上に蓄積していった。
重要なのは、CUDAがNVIDIAの外部依存を単純に減らしたわけではないことである。
NVIDIAは研究者や開発者の知識・参加に依存する。一方、研究者や開発者もNVIDIAの計算環境を利用することで利益を得る。つまりCUDAは、NVIDIAと外部の研究者・開発者との共同依存を拡大するプラットフォームになったと考えられる。
4.AIコンピューティング企業への進化
大きな転機の一つが2012年だった。
Krizhevsky、Sutskever、Hintonらは、2基のNVIDIA GTX 580 GPUを用いた大規模なニューラルネットワークによって、ImageNetで従来手法を大きく上回る成果を示した(Krizhevsky et al., 2012)。
これはNVIDIA自身による広告ではない。外部研究者による成果が、GPUを汎用的な並列計算基盤として位置づけてきたNVIDIAの主張に、AIという新しい用途で実用的な根拠を与えた。
この成果によって、NVIDIAが「GPU企業」から「AIコンピューティング企業」へとアイデンティティを拡張するための正当性と技術的評判が高まったと考えられる。
その後、NVIDIAはGPUだけを販売する企業から、AI計算環境全体を提供する企業へと事業範囲を広げていく。2016年には、GPU、ディープラーニング・ソフトウェア、開発ツールなどを統合したDGX-1を発表した。
さらにMicrosoftなどのクラウド企業との関係を拡大し、開発者はGPUを直接保有しなくても、クラウド経由でNVIDIAの計算環境へアクセスできるようになった。
そして2020年、NVIDIAは高速インターコネクト技術を持つMellanoxを約71億ドルで買収した。NVIDIAはこの買収について、計算、ネットワーク、ストレージを横断し、データセンターのワークロードを最適化することを目的の一つとして説明している(NVIDIA Corporation, 2021)。
GPUだけではなく、ソフトウェア、ネットワーク、クラウドへ。NVIDIAが関与する範囲は、徐々にチップ単体からデータセンター規模の計算基盤へと広がっていった。
5.AI Factory――半導体企業からAIインフラ企業へ
2022年末以降、生成AIの普及によって、大規模モデルの学習と推論に必要な計算資源への需要は急速に拡大した。NVIDIAがこの需要を単独で生み出したわけではない。
しかし、それまでにCUDA、統合システム、ネットワーク技術、クラウド企業との関係を長期間にわたって蓄積していたことで、同社は需要の急増に対応できる位置にいた。
そして近年、NVIDIAが強く打ち出しているのがAI Factoryという概念である。
NVIDIAは従来のデータセンターを、単なるデータ保存や処理の場所ではなく、電力と計算資源を用いてトークン、すなわちデジタルな「知能」を生産する工場として描いている(NVIDIA Corporation, 2026)。
2026 Annual Reviewでは、AI産業を次の5層で説明している。
- Energy
- Chips & Systems
- Infrastructure
- Models
- Applications
ここで注意したいのは、NVIDIAがこれらすべてを所有・支配しているわけではないことである。
NVIDIA自身も、半導体製造、メモリ、電力、水、土地、クラウド企業の設備投資、AIモデル企業の需要、政府規制など、多くの外部資源に依存している。
それにもかかわらず、GPU、CUDA、ネットワーク、AIシステムを複数のレイヤーの接続点へ置くことで、AI産業における中心的位置を高めていると解釈できる。
AI Factoryは、こうした既存の技術構造を説明する言葉であると同時に、企業や政府がAIインフラへ資源を配分する意味づけを提供するナラティブとしても機能し得る。
NVIDIAは「依存をなくした」のではない
NVIDIAの約30年間を振り返ると、自社のアイデンティティは段階的に変化してきた。
1993–1996年
グラフィックス新興企業
→ NV1の失敗、外部依存からの学習
1997–2005年
GPU企業
→ RIVA 128、TSMCとの製造連携、GPUカテゴリーの形成
2006–2011年
並列計算プラットフォーム企業
→ CUDA、研究者・開発者との共同依存
2012–2022年
AIコンピューティング企業
→ AlexNet、DGX、クラウド、Mellanox
2023–2026年
AIインフラ企業
→ 生成AI、AI Factory
ここから見えてくるのは、競争優位が必ずしも「外部への依存を減らすこと」だけから生まれるわけではないということである。
NVIDIAはTSMC、研究者、開発者、クラウド企業、AI企業へ依存し続けている。
一方で、CUDA、統合システム、ネットワークなどを自社のプラットフォーム上に結びつけることによって、他のアクターにとってもNVIDIAを利用する価値を高めてきた。
その結果、相互依存そのものを拡大しながら、その中で自社の代替可能性を低下させるという構造を形成した。
資源依存論の観点から見れば、NVIDIAの競争優位は「依存からの自律」だけではなく、「共同依存の中での中心的位置の形成」として理解できる。

ストーリーは競争優位を直接つくるのか
本稿のもう一つの論点は、ストーリーテリングである。
NV1の失敗からGPU、CUDA、Accelerated Computing、AI Factoryへと、NVIDIAは自社が「何者なのか」を示す言葉を何度も更新してきた。しかし、ストーリーを語っただけで競争優位が生まれたわけではない。
本稿から示唆されるプロセスは、より複雑である。
ストーリーによって企業のアイデンティティが理解可能になる。
↓
顧客、研究者、投資家などが、その企業の正当性・評判・地位を判断する。
↓
投資、契約、参加、協力などの資源配分が起こる。
↓
その資源が技術、ソフトウェア、設備、技能として蓄積される。
↓
企業の次のアイデンティティを実体化する。
NVIDIAの事例は、ストーリーテリングが直接競争優位を生むというよりも、社会的な評価と資源配分を媒介し、将来像を現実の構造へ変えていく可能性を示している。
中心的位置は、新しい依存も生む
ただし、NVIDIAの現在の位置が永続するとは限らない。AIインフラは大量の半導体製造能力、データセンター、電力、水、土地などを必要とする。
国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンター向け電力供給が2024年の約460TWhから、2030年には1,000TWhを超える基準ケースを示している(IEA, 2025)。
ネットワークの中心に位置する企業は、他者から依存される一方で、ネットワークそのものを成立させる外部資源にも強く依存する。この意味では、中心的位置の上昇はパワーだけでなく、新しい脆弱性も生み出す。
NVIDIAの今後を考えるうえでは、GPUの性能や売上だけを見るのでは不十分である。製造力、エネルギー、クラウド企業の設備投資、政府規制、競合技術への代替可能性、そして社会的正当性まで含めた依存構造を見る必要がある。
まとめ――NVIDIAから企業戦略について何を学べるのか
NVIDIAの成長は、「優れたGPUを開発した」という一つの要因だけでは説明しにくい。
NV1の失敗を経て、自らの価値を説明する方法を学び、GPUという新しいカテゴリーを提示し、CUDAによって研究者や開発者を巻き込み、DGXとMellanoxによって補完的資源を統合し、さらにAI Factoryというナラティブによって、自らをAIインフラ企業へと位置づけてきた。
その過程でNVIDIAは、外部への依存をなくしたわけではない。多様な主体との共同依存を拡大しながら、そのネットワークの中で自社を代替しにくい位置へ移動してきた。
企業戦略を考えるうえで重要なのは、「どの資源を自社で持つべきか」だけではない。
自社は誰に依存しているのか。
誰が自社に依存するのか。
その関係の中で、自社にしか提供しにくい価値は何か。
NVIDIAの歩みは、AIや半導体産業に限らず、多くの企業の事業戦略を考えるうえでも示唆を与えている。
木ノ内 輝 / Hikaru Kinouchi
株式会社Tokyo New Cinema代表。
映画製作・プロデュースに加え、経営学におけるストーリーテリング、アントレプレナーシップ、社会的評価、資源動員について研究・学会報告・情報発信を行っている。Tokyo New Cinemaでは、映画製作で培ったストーリーテリングと経営学研究を組み合わせ、企業・行政・教育機関のナレティブを設計し、映像・Web・コミュニケーションへ実装する活動に取り組んでいる。
主な参考文献
Bitektine, A. (2011). Toward a theory of social judgments of organizations: The case of legitimacy, reputation, and status. Academy of Management Review, 36(1), 151–179.
International Energy Agency. (2025). Energy and AI.
Krizhevsky, A., Sutskever, I., & Hinton, G. E. (2012). ImageNet classification with deep convolutional neural networks. Advances in Neural Information Processing Systems, 25, 1097–1105.
Lounsbury, M., & Glynn, M. A. (2001). Cultural entrepreneurship: Stories, legitimacy, and the acquisition of resources. Strategic Management Journal, 22(6–7), 545–564.
Nickolls, J., Buck, I., Garland, M., & Skadron, K. (2008). Scalable parallel programming with CUDA. Queue, 6(2), 40–53.
NVIDIA Corporation. (2021). Annual report for the fiscal year ended January 31, 2021 (Form 10-K).
NVIDIA Corporation. (2026). 2026 Annual Review.
Suchman, M. C. (1995). Managing legitimacy: Strategic and institutional approaches. Academy of Management Review, 20(3), 571–610.
Teece, D. J. (1986). Profiting from technological innovation: Implications for integration, collaboration, licensing and public policy. Research Policy, 15(6), 285–305.
小橋勉(2012)「資源依存パースペクティブの理論的展開とその評価」『組織学会大会論文集』1(2), 19–28.
テイ・キム(2025)『The NVIDIA Way エヌビディアの流儀』千葉敏生訳、ダイヤモンド社。