2017年6月、モスクワ国際映画祭。『四月の永い夢』は、国際映画批評家連盟賞、ロシア映画批評家連盟特別表彰をダブル受賞する快挙をなし遂げた。「詩的な言葉の表現と穏やかな映像を通して人生の大事なエッセンスを伝えているプライスレスな作品」と評価されたのだ。モスクワ国際映画祭は、カンヌ、ベルリン、ヴェネチアにならぶ“世界四大映画祭”のひとつと称され、2年に1度開催される映画祭。過去の各賞受賞者には、新藤兼人、黒澤明、小栗康平、熊切和嘉といった錚々たる監督が名を連ねる。
弱冠27歳(映画祭当時)の中川龍太郎監督は、受賞の記者会見でこう語っている。「今の日本は表では平和に見えるが、同時に生きている実感を持ちづらい社会。そんな中で、悲しみややりきれなさを抱えながらも、どのように次のステージへ向かっていけるのかということを静かなトーンで描きたかった」。
恋人を亡くしたひとりの女性が喪失感や心の棘から解放されていく姿を、日常の輝きの中で描く『四月の永い夢』。「派手でなくとも、誠実に生きる」姿をテーマに撮り続けたいという、世界が注目する若き監督の最新作が、いよいよ公開となる。
3年前に恋人を亡くした27歳の滝本初海。音楽教師を辞めたままの穏やかな日常は、亡くなった彼からの手紙をきっかけに動き出す。
元教え子との遭遇、染物工場で働く青年からの思いがけない告白。そして心の奥の小さな秘密。
――喪失感から緩やかに解放されていく初海の日々が紡がれる。
初海の心の光と影をその透明感あるたたずまいでみずみずしく演じるのは『かぐや姫の物語』の朝倉あき。初海に恋する朴訥で誠実な青年・志熊を体現するのは映画・TVで活躍する三浦貴大。脇を固める高橋由美子 志賀廣太郎 高橋惠子ら実力派俳優陣の心打つ演技、舞台でも活躍する川崎ゆり子。モデルで活躍する青柳文子の新鮮な存在感。
大橋トリオ等と活動するユニット・赤い靴の「書を持ち僕は旅に出る」が挿入歌として印象的に流れ初海の一歩をそっと後押しする。物語を彩るのは『おおかみこどもの雨と雪』の舞台となったともされる国立や富山県朝日町をロケ地とした日本の美しい風景。平成という時代が過ぎ去ろうとする今、本作は物質的豊かさをゴールとしない丁寧で誠実な日常が生みだす幸せと希望をどこか昭和的なノスタルジーと共に伝えてくれる。
これまで中川龍太郎監督が手掛けた作品のうち、『愛の小さな歴史』(15)、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(16)が2年連続で東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門出品。後者は、フランスの映画批評誌「カイエ・ドゥ・シネマ」からも高く評価され、小さな規模の公開にも関わらず話題を巻き起こした。そんな『走れ、絶望に追いつかれない速さで』に続いて、『四月の永い夢』は、“親友の死”という自身の実体験を踏まえながら、だが前作の鋭い感性とはまた異なる優しいまなざしで、主人公の心の旅を描き出していく。
原作本の映画化が多い昨今の中で、監督自ら執筆する脚本におけるセリフは本作の魅力のひとつ。語り過ぎず、さり気なく発せられる端正な言葉と、そこに込められた心情のリアリティ。観る者の心に響くそれらは、17歳で「詩集 雪に至る都」を出版した詩人、エッセイストにして、大学の文学部に籍を置きつつ独学の映画作りで才能を発揮してきた経歴を持つ、彼ならではのもの。同時に、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』で主演を務めた太賀のその後の活躍ぶりの礎となったように、キャストの魅力を最大限引き出すことでも定評がある。
平成2年生まれの若者としての視点に立ちながら、昭和の風景への憧れを抱き、文学というフィールドを背景に持つユニークな映画監督・中川龍太郎が、閉塞感ある今の社会に風を吹き込む。
新たな作品に臨むときに、その監督の見る世界を同じように見ることができたらいいのにといつも思いますが、今回ほど強くもどかしく感じたことはありません。
それほどまでに中川監督の映画には、誰しもが抱きながら誰も描いたことのないような、痛いほどに鋭く、そして優しい世界が広がっています。そんな世界を是非、多くの方に観て頂きたいです。
自死した息子の母 沓子は、かつての息子の恋人、朝倉さん演じる初海と対峙する大変難しい役でした。
現場での中川監督の的確なアドバイスと朝倉さんの清らかで真っ直ぐな初海を感じる事で、何とか沓子を演じる事ができました。富山の皆さまの温かいご協力と、若いスタッフたちの情熱に満ちた撮影現場は、貴重な体験でした。この作品が多くの方の心に届きますよう願っております。
感謝を込めて
1991年生まれ、神奈川県出身。2008年、『歓喜の歌』でスクリーンデビュー。「とめはねっ! 鈴里高校書道部」(10)にてテレビドラマ初主演。NHK連続テレビ小説「てっぱん」、「純と愛」や「下町ロケット」などの話題作へも出演。映画では『神様のカルテ』(11)、『横道世之介』(13)、スタジオジブリのアニメ映画『かぐや姫の物語』(13)のヒロイン・かぐや姫の声も演じた。その他、舞台やラジオなどにも活動の幅を広げている。
1985年生まれ、東京都出身。『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(10)でデビューし、第34回日本アカデミー賞新人俳優賞と第35回報知映画賞新人賞を受賞する。近年の出演作に『サムライフ』(15)、『進撃の巨人』シリーズ(15)、『怒り』(16)、『世界は今日から君のもの』(17)など。
1991年東京生まれ。福島の山奥深くで育つ。桜美林大学演劇専修卒業の舞台女優。大学在学時より舞台出演をはじめ、近年の主な出演作は「ロミオとジュリエット」(16)、「書を捨てよ町へ出よう」(15)(いずれも東京芸術劇場)など。その他、モデル、MV出演などの活動も行う。
1974年生まれ、埼玉県出身。1989年に女優、翌年に歌手としてデビュー。テレビドラマ「南くんの恋人」(94)で主演を務め、主題歌「友達でいいから」ともども話題となり絶大な人気を得る。98年から始まるドラマ「ショムニ」シリーズでの個性的な演技で存在感を確立し、従来の清純派アイドルというイメージから個性派女優へと転身を遂げる。映画では『時の輝き』(95)などに主演。舞台でも作品ジャンルを問わず多彩な役柄で実力を発揮している。
1987年生まれ、大分県出身のモデル・女優。独創的な世界観とセンスで20代女性の支持を集める。雑誌の他、映画、TVドラマ、バラエティ番組、アーティストMVと多方面で活躍中。主な出演作品に『サッドティー』(14)、『知らない、ふたり』(15)など。
1943年生まれ、北海道出身。特撮テレビドラマ「ウルトラセブン」で主役のモロボシ・ダン/ウルトラセブンを演じる。以降、数多くのウルトラマンシリーズへ出演。ダンディーな役から3枚目の役がらまで幅広く演じる俳優として、ドラマ・映画・舞台にと多数の作品に出演し活躍。近年の出演作に映画『ホームカミング』(11)、ドラマ「匿名探偵」(14)などがある。
1948年生まれ、兵庫県出身。桐朋学園大学短期大学部(現桐朋学園芸術短期大学)演劇専攻科を修了。同校演劇科講師を務め現在に至る。1990年劇団青年団に入団。「ソウル市民」「東京ノート」「上野動物園再々々襲撃」「ニッポン・サポート・センター」などの作品に出演。ナイロン100°C、山の手事情社、五反田団、シスカンパニーほか外部出演多数。ドラマ「アンフェア」や「三匹のおっさん」シリーズ、映画『幕が上がる』(15)や『あやしい彼女』(16)など数々の作品に出演する名脇役。
1955年生まれ、北海道出身。旧名は関根恵子。『高校生ブルース』(70)で映画主演デビュー。さらに同年『おさな妻』(70)でゴールデンアロー賞新人賞を受賞。主な出演作品にテレビドラマ「太陽にほえろ!」(72)、映画『赤い玉、』(15)、舞台「マイ・フェア・レディ」(16)など。
1990年神奈川県生まれ。詩人としても活動し、17歳のときに詩集「詩集 雪に至る都」(07)を出版。やなせたかし主催「詩とファンタジー」年間優秀賞受賞(10)。国内の数々のインディペンデント映画祭にて受賞を果たす。初監督作品『Calling』(12)がボストン国際映画祭で最優秀撮影賞受賞。『雨粒の小さな歴史』(12)がニューヨーク市国際映画祭に入選。東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門では『愛の小さな歴史』(14)に続き、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(15)と2 年連続の出品を最年少にして果たす。本作『四月の永い夢』(17)が、世界四大映画祭のひとつである第39回モスクワ国際映画祭コンペディション部門に正式出品、国際映画批評家連盟賞、ロシア映画批評家連盟特別表彰をダブルで受賞。第19回台北映画祭、第10回バンガロール国際映画祭にも正式出品された。
※注記:監督プロフィールのみ映画作品カッコ内は製作年度
1990年神奈川県生まれ。詩人としても活動し、17歳のときに詩集「詩集 雪に至る都」(07)を出版。やなせたかし主催「詩とファンタジー」年間優秀賞受賞(10)。国内の数々のインディペンデント映画祭にて受賞を果たす。初監督作品『Calling』(12)がボストン国際映画祭で最優秀撮影賞受賞。『雨粒の小さな歴史』(12)がニューヨーク市国際映画祭に入選。東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門では『愛の小さな歴史』(14)に続き、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(15)と2 年連続の出品を最年少にして果たす。本作『四月の永い夢』(17)が、世界四大映画祭のひとつである第39回モスクワ国際映画祭コンペディション部門に正式出品、国際映画批評家連盟賞、ロシア映画批評家連盟特別表彰をダブルで受賞。第19回台北映画祭、第10回バンガロール国際映画祭にも正式出品された。
※注記:監督プロフィールのみ映画作品カッコ内は製作年度
「前作の『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(16)は、ベクトルが自分に向いている、ある意味プライベートな映画でした」と中川龍太郎監督は語る。「亡くなった親友へのレクイエムであり、自分にとってのメモワール。年齢を重ねて観たときに、当時の自分の気分を思い出させてくれるものを作りたかったんです」。
『走れ、絶望に追いつかれない速さで』は、親友の自死をどのように受け止めていくかについて実体験をもとに描き、主人公の痛切な感情が観る者に熱く迫る作品だ。大学生から社会人になろうとする時に亡くなった親友の、その死の翌年に撮った映画であり、映画のタイトルも、学生時代に中川監督が落ち込んでいた時に、その親友が英語でメールしてきてくれた言葉からとったもの。
対して、本作『四月の永い夢』は、いわばその親友の恋人の視点からの物語。亡くなって3年の時が流れている。かつて親友を亡くした時、「彼のような友人は果たして今後、作り得るのだろうかと思った」という中川監督。だが今となれば、彼が亡くなってから、あるいは亡くなったことによって育まれていった親しい人間関係が存在することを認める。「今回は、その人達との世界を描こうと思いました」。
「本作のテーマのひとつが、声です」と中川監督は語る。声や音は頭よりも胸にダイレクトに飛び込んでくる要素だと彼は言う。その感覚は、キャスティングにも及んだ。かつて親友を亡くしたばかりの頃、何を観ても何も入って来なかったという状態の中川監督の心に唯一届いたのが、『かぐや姫の物語』(13)と、そこでかぐや姫の声を演じていた朝倉あきの声だったという。その声に魅了された中川監督は、本作を作るにあたり、初海役に彼女をキャスティングした。かぐや姫のキャラクターにも重なる、他者に対して慎重で膜を作ってしまうところのある初海のキャラクターは、朝倉あきの憂いを帯びた声とナチュラルなたたずまいによって命が吹き込まれていく。
作曲家。1984年、群馬県出身。国立音楽大学作曲専攻卒業。様々な映画作品に影響を受け、高校の頃より作曲家を志す。多くのCM音楽を手掛けており、日清カップヌードルSURVIVE!「就職氷河期」篇(13)、大和ハウス「太陽を集めた男」篇(14)、HOME’S「登場」篇(15)、日本製粉REGALO(17)、ニチレイ焼きおにぎり「ドンドンいける」篇(17)、ドモホルンリンクル美活肌エキス「おどろく肌」篇(17)、ダスキンおそうじベーシック3「歓喜の大そうじ」篇(17)等。映画音楽は『スマグラー』(09)、『スプリング、ハズ、カム』(17)などを手掛けている。
この映画で最も印象的なシーンのひとつが、冒頭で初海のモノローグとともに映し出される「桜」と「菜の花」が同時に咲き誇る光景ではないでしょうか。この幻想的な風景を撮影したのが、埼玉県北本市の西端、荒川に沿って南北に伸びる城ヶ谷堤(じょうがやつつみ)です。堤の両側に約60本のソメイヨシノが植えられ、毎月4月には見事な桜のトンネルができあがり、その周りには黄色いじゅうたんを敷き詰めたように菜の花が咲き誇ります。首都圏にありながら意外と知られていないフォトジェニックなスポットです。
しかし桜と菜の花が同時に満開に咲いている時期はごくわずか。撮影当時は気候が不安定で、撮影予定日も前日までしとしとと雨が降っていました。もし当日に撮影できないほどの雨が降ってしまったら、桜前線とともにクルーも一緒に北上して翌週に仙台で、それもダメならさらに北上して青森で……という最悪の事態も覚悟していました。しかしここ以外の場所ではロケハンしておらず、桜と菜の花が同時に映し出せるこれ以上の場所はありません。
どうか晴れてくれ……と祈りながら迎えた当日、空には明るい日差しが! 無事太陽のもとで、この映画で最も美しいシーンのひとつを撮影することができました。久しぶりの晴れ間とあって当日は地元のお花見客がいつもより多く訪れ、人で溢れかえっているほど。頭を下げて場所を空けてもらい、地元の方の協力を得ながら撮影しました。
主人公・初海や彼女を取り巻く人たちが暮らす街の舞台となったのは、東京都のほぼ真ん中に位置し、東京駅から中央線で45分の国立市です。「新東京百景」や「新・東京街路樹100景」などに選ばれているメインストリート、駅と一橋大学を結ぶ大学通りを中心に都内屈指の落ち着いた街並みが広がります。本作では劇中に登場するロケ地の多くにJR国立駅周辺を選びました。
中川監督と国立との出会いは、約10年前に監督の父親が国立に小さなクリニックを開いたことにさかのぼります。中川監督は国立についてこう語ります。「前作の脚本を真夏の国立で書いている時、次はこの町を撮ろうと心に決めました。国立という町の持つ、景観や住環境に対する美意識は、世界に通用するものであり、今後の日本の都市計画にきっと活かされるべきものであると思っています」。モスクワや台北など海外の映画祭で上映された際も「あの街並み素敵だね」「東京のイメージとは少し違うけど、あそこはどこなの」と声をかけられるなど、映画の雰囲気にマッチした情景はあらためて日本の美しさをアピールすることにつながったのではないでしょうか。
本当の気持ちが伝わるように、素直な言葉だけを並べて書いた手紙の追伸のようでした。
大切なものを失えど、大切だという事実を抱きしめながら映画を作る人なんだと思います。
新しい季節とこの映画は、よく似合います。
中川龍太郎の映画には今時珍しく詩がある、行間がある、情緒がある。
終わりゆく平成も捨てたもんじゃない。
若い監督が若いスタッフ、若いキャストと迷い彷徨う映画に嫉妬する。
さぞかし楽しかっただろう!羨ましい!
そして、主演の朝倉あきさんの初々しさは、事件だ!羨ましい!
映画館の大きなスクリーンで浴びるように観るべき映画だと思う。
劇場と観客の醸し出す空気に身を浸し、外界では味わうことの出来ない贅沢な時間を過ごせる、そんな風に感じられる映画です。
悩みに答えは無いと分かっているけれど、映画監督の仕事も人の人生も足し算でなく、引き算だと教えてくれました!
流れる時間に任せて映画を体験するのもいいだろう。
だが、その監督が「どうしてもやりたかった」シーンに突入する瞬間の、シーンと静まり返ったような研ぎ澄まされた感覚はどうだ。
その時、世界はすべてが塗り替えられる。
『四月の永い夢』は、心に安心と温かみをもたらしてくれる。
死者と我々の関係は穏やかなものであっていいと諭してくれるのだ。
中川龍太郎監督は感情を静かに震わせる術を心得ており、その世界にヒロインが見事にマッチした。春に見るのにこれほどふさわしい作品はない。
※敬称略、順不同
株式会社かまわぬは30年近い歴史を誇るてぬぐい専門店です。注染(ちゅうせん)と呼ばれる技術を使い、江戸の古典柄からモダンな現代柄まで常時約200柄のてぬぐいを取り揃えています。かまわぬという名前には「特別に何のお構いも出来ませんが 気軽にお立ち寄り下さい」との意味が込められています。代官山や浅草に直営店を持ち、海外にも販路を広げています。
『四月の永い夢』製作にあわせ、オリジナルデザインのてぬぐい「金魚花火」を作っていただきました。